作者
久生十蘭
題名
魔都
出版社
東京創元社
出版社による梗概
『日比谷公園の鶴の噴水が歌を唄うということですが一体それは真実でしょうか』――昭和九年、銀座のバーで交わされた奇妙な噂話が端緒となって、帝都・東京を震撼せしめる一大事件の幕が開く。安南国皇帝の失踪と愛妾の墜死、そして皇帝とともに消えたダイヤモンド――事件に巻き込まれた新聞記者・古市加十と眞名古明警視の運命や如何に。絢爛と狂騒に彩られた帝都の三十時間を活写した、小説の魔術師・久生十蘭の長篇探偵小説。初出誌〈新青年〉の連載を書籍化、新たに校訂を施して贈る決定版。解説=新保博久
定価
文庫版 本体1,300円+税
感想
久生十蘭の「魔都」は青空文庫でも読めますが、そちらは新字新仮名なのです。一応リンクを貼っておきます。 http://www.aozora.gr.jp/cards/001224/card46076.html
やはり久生の濃密な文体を味わうには、極力もとの表現方法と紙媒体が良いように思うのです。
書き出しの段落を比較してみます。括弧()内はルビです。まずは青空文庫から、
『甲戌(きのえいぬ)の歳も押詰って、今日は一年のドンじりという極月(ごくげつ)の卅一日、電飾眩ゆい東京会館の大玄関から、一種慨然たる面持で立ち現われて来た一人の人物。鷲(わし)掴みにしたキャラコの手巾(ハンカチ)でやけに鼻面を引っこすり引っこすり、大幅に車寄の石段を踏み降りると、野暮な足音を舗道に響かせながらお濠端(ほりばた)の方へ歩いて行く。見上ぐれば、大内山の翠松の上には歯切れの悪い晦日(みそか)の月。柳眉悲泣といったぐあいに引っ掛っている。』
次は本書から、
『甲戌(きのえいぬ)の歳も押詰って、今日は一年のドン尻という極月(ごくげつ)の三十一日、電飾眩(まば)ゆい東京會舘(とうきょうかいかん)の大玄関から、一種慨然たる面持で立現れて来た一人の人物、鷲掴(わしづか)みにしたキャラコの手巾(ハンカチ)で焼腹(やけ)に鼻面を引っ擦(こす)り引っ擦り、大巾(おおはば)に車寄(くるまよせ)の石段を踏み降りると野暮な足音を舗道に響かせながらお濠端(ほりばた)の方へ歩いて行く。見上ぐれば、大内山(おおうちやま)の翠松(すいしょう)の上には歯切れの悪い晦日(みそか)の月。柳眉悲泣(りゅうびひきゅう)と言った工合(ぐあい)に引っ掛っている。』
いかがでしょう?
ご案内のこととは存じますが、古く「探偵」とは「刑事」のことでありました。落語の『探偵うどん』なども刑事の噺です。
物語は大晦日の夜~翌元日までの出来事を魔術的な文章で描いております。
久生が初見という方にはお勧め出来ません。
興味をお持ちでしたら、「顎十郎捕物帳」が最適です。そちらも青空文庫で全24話を閲覧可能です。 http://www.aozora.gr.jp/index_pages/person1224.html#sakuhin_list_1
7/10点


