作者
光文社編
題名
坂木司リクエスト! 和菓子のアンソロジー
出版社
光文社
出版社による梗概
「和菓子」をモチーフに、短編を一作書いていただけませんか? 読書家としても知られる『和菓子のアン』の著者・坂木司が、今いちばん読みたい人気作家たちに執筆を依頼。日常の謎を描くミステリーから、壮大な世界観を展開するSF、心温まる優しい怪談まで、さまざまな読み味の作品が揃いました。疲れたときに読みたくなる、宝箱のような一冊をどうぞ。
小川一水/木地雅映子/北村薫/近藤史恵/坂木司/柴田よしき/日明恩/恒川光太郎/畠中恵/牧野修
定価
本体660円+税
感想
小説のアンソロジーというと、あたくしは「あるテーマについて編者が集め纏めたもの」とイメージしておりました。
本書は「依頼した作家にあらかじめ決められたテーマ(和菓子)で執筆してもらったもの」です。当然初出はすべて光文社の「月刊小説宝石」になります。
あたくしが手にした目的は、「書評 日明恵 ゆえに、警官は見護る」に書きましたとおり日明恵の「トマどら」でした。
「トマどら」を読んで、やはり日明恵は長編作家だとの認識を新たにしました。日明のお師匠さんである都筑道夫が喝破したとおりです。短編になるとどうしても急ぎ足の文体感が拭えませんでした。ストーリーも面白く謎の提示も良かったので、もったいないです。
ほかの掲載作では北村薫が良かったです。暗号テイストのお得意の作風でした。
和菓子というとあたくしは「豆かん」を思い出します。別に「豆かん」が大好物であった五代柳家小さんを気取っていたわけではありません。ゴテゴテ飾ってなくって、寒天と赤エンドウに黒蜜をかけていただく、シンプルなだけに寒天や豆の素性も分かりやすいです。
以前、勤務先の昼休み近隣に甘味処を発見しました。平日の昼で店内はほとんどが女性ばかり。思い切って入ったのです。背広姿のあたくしは目立ちました。
そして頼んだのが「豆かん」。旨かった。
以来、出張などで不在時を除いて2年間毎日通いました。ほとんどは一人で、たまに部下や取引先と一緒に通いました。注文は「豆かん」一辺倒で、それ以外を頼んだことはありません。
テーブルの上のメニューを一瞥して「豆かんを」と注文。
「おまちどおさまです」と「豆かん」がテーブルに置かれる。食べて「ごちそうさま」の声とともに代金を残して店を出る。判で押したような2年間の豆かん生活でした。
いくら通っているとはいえ「いつものやつ」と頼むほどあたくしは厚顔ではなく、あたくしの顔を見て黙って「豆かん」を出すほど店も無知ではありません。
「豆かんを」「おまちどおさま」の繰り返しです。
その職場を離れる最後の日、やはり「豆かんを」「おまちどおさま」であたくしの豆かん生活が終わりました。それ以来10年「豆かん」は口にしておりません。


